人を愛するとは

2022.8.17

 

 T君が亡くなって、知らせを受けてもう1ヶ月が経とうとしている。

 お盆は気が重かった。しかし、父と母が守ってくれると信じている。

 私は秋田に来て気のおけない友人が3人出来た。

 皆、自死でこの世を去っている。

 T君が亡くなったAの事を

「幻聴が酷くて、死んだんだよ」

と言ったが、私は薬が合わなくて、よっぽど苦しかったのだと思った。

 同じ病院で知りあった。

私は今は名前こそ、忘れたが、違う男の子が好きで、気持ちを伝えていた。

 彼が外泊して、戻って来た時、ブランド品のネックレスを私にプレゼントしてくれた。

 私は自分の気持ちが受け入れられたと思っていたが、その男の子は変わっていて、私の母に

「お母さんが、心配で・・・」

と言ったそうだ。

 一人娘が病気になり、父は函館にいて、母を憐れんだのだろう。

 その男の子はある日突然、退院して行った。

 私の事を何とも思っていないのなら、何故、あんな高いネックレスをプレゼントしてくれたのだろう?

 銀座のホステスでは私は無い。

今でも疑問だ。

 退院して、始めの頃は10人位で、花見に行ったりしていたが、皆、住んでいる所もバラバラで、仕事もあるし、ある男の子が

「〇〇さんと会うといつも、ソープランドに誘われるから、もう会いたくなぃ」

と言った。

 男性でも、そういう所に行くのが、嫌な人もいるのだ。

 〇〇さんは女の私に、平気な顔をして

「この前、ソープに行ったらよ!胸が全然無い女でよ!頭来た!」

私は心の中で、相手だって、アンタの事を好きでもなんでもなく、お金の為にやってるんだよ!と腹がたった。

 そのうち、私とAとT君で会うことが多くなった。

 ある時、Aが、私に

「のんさんと会うのは良いけど、T君と会うのは時間とお金の無駄だから、私はのんさんとだけしか、会いたくない」

と言ったので、私とT君とで会っていた。

 普通に本や音楽の話しをした。

私も体調が今一つだから、1時間位しか、話し相手になれなかった。

 後で聞くと、T君はS学会の信者で、私がお手洗いに行った時にAにしつこく、学会に入らないかと迫っていたらしいのだ。

 クリスチャンだった私には言って来なかったし、水と油の私によく会おうとしたなと感じた。

 今思うと、メールで、ネオンが綺麗だから、会いませんか?とか、自動車免許の更新が同じだから、一緒に行きませんか?等、私にしたら❓の誘いが何回かあった。

 私はそういう所はとても鈍いのだ。

 出会って、10年位した時、母がその男の子の顔が見たいと言ったので、一緒にプリクラを撮った。それが、マズかったのだろう。

家に着いたら、T君から

「会った時から、好きでした。返事はいつまでも待ちます。付き合って下さい」

とメールが入っていた。

 残念ながら、私はどう考えても、その男の子の事を恋愛対象に見られなかった。

だから、直接会って、告白出来ない人だったら、お断りすれば、良かったが、同情心が出てしまい

「まだ、恋愛対象としてみれないけれど、ゆっくり好きになる努力をしでみるから、それでもいい?」

と訊くと、それでもいいと言ったので、お付き合いしてみることになった。

 そうすると

「僕と会って、1時間でバイバイするのは何故?」

とメールで訊かれ、よーく考えてみると、今まで、彼氏でなくても、一緒に何処かに行く人は皆、車持ちだった。

 家まで、迎えに来てくれて、何処かに行く。そして、帰りは送ってもらう付き合いしか、してこなかったので、その男の子に会いに態々、電車に乗って、まだ、病んでいる身体に鞭打って会うのに1時間が精一杯だったし、今までの男性は皆、食事代とか、出してもらっていたから、その旨を伝えた。

 「のぞ美さんの考え方は古すぎます。今時のカップルは割り勘が当たり前です」

と言われ、私はそれは貴方と同じ位、貴方の事を好きな彼女だったらの場合で、まだ、片思いならば、好きな人に自分の時間を分けてもらって、ありがとうの意味で、出すのが、当たり前だと思った。私ならばそうしたし。

しかし、こちらから言って一緒に行った時も、お相手の方が出してくれた。

 その男の子の考えを要約すると

「僕が好きだから、一緒にデートして。でも、自分の分は自分で出してね」

なら、貴方中心で世界が回っている事になるだろう。

 私は何より、自分を馬鹿にされた気がした。

 長年、付き合って来たカップルだったら

「ゴメン!今日、給料日前で、金欠だから」

ならば分かるが、奢れないのではなく、出したくないと言う。私は舐められた感じがした。

 そして、どう考えても、その男の子を恋愛対象に見られずに一週間、眠剤を飲んでも眠れない日が続き、友達として、付き合えないかと言うと、もう無理と言ったので、なら、会わない事にしようとなった。

 そして、極めつけが

「コーヒー代こそ、出さなかったけど、本やCDいっぱいプレゼントしたよね?」

に、同情心も消え失せた。

 一度も、会わすに別れて正解だと思った。

私の前で朴訥そうにしていたのも、すべて演技だったのだから。

 そして、認知症になった母が亡くなったばかりの時、その男の子から、夜中に電話が掛かって来た。

 私は二度と会いたくなかったので、電話に出なかったら、SNS

「もとはと言えば、おまえから友達になりたいって言ったからこんなになっちゃったんじゃねぇかよ!」

とのメッセージ。一度も、おまえ呼ばわりされた事などなかった。

 何を今さらと思った。そして、また、電話。切れてSNS

「今頃、Aさんも、俺たちの事、嘲笑っているのかな?」

と、さも過去に深い仲だったみたいな、メッセージ。

 訪問看護さんの緊急に電話を入れて、表札を外して、一人震えていた。

 また、電話。

私は近所の交番に電話して、そのまま、中央署へ。被害者の私が写真を撮られ、書類5枚くらいに書いて、次の日、口頭注意をして、私のアドレスを消させ、一筆書いてもらった。

 男の子にしてみたら、また、友達からやり直したいの気まぐれに過ぎないだろうが、こっちにしてみたら、殺されるかもと恐怖に怯える日々。

 そして、先月

「〇〇さんと、お付き合いなされていた、中田のぞ美さんですよね?〇〇さんお亡くなりになりました」

にいつ、付き合ったのだろう?と間違えこの上ない。

 J先生が言うには、警察が間違えるような、事を書いてあったか、何かだ、と言われた。

 よく、テレビドラマで、その人の写真を部屋一面に貼ってあるのを見た事があるし、日記等で、さも、彼女のように書いてあったのだろう。

 彼は私に恋してたかも知れないが、決してそれは愛ではない。

 恋は自分本位だが、愛は相手の事を優先させるからだ。

 私に最後まで、嫌な思いをさせて、この世を去った。

 彼を憐れみはするが、私もその子の事を愛する事は出来ない。

 恋愛感情もわかない。

彼の死は重く受け止めるが、私にはこれ以上どうする事も出来ない。

 私にも、選ぶ権利はある。

 愛するとは相手の幸せを願う事だ。

彼には愛が感じられない。

 私も、人を愛せるようになりたいな。