小指の指輪

 私は初任給で、8万円いただいた。

 母に2万円を渡して、社長と専務に写真盾をプレゼントした。

 そして、絶対、小指の指輪を買うと決めていた。

 宝飾店へ行き、カラスケースに並んである指輪を見ていて、Nと型どった指輪を、これだ!と、思った。

 私のイニシャルのN。

「これ、一つ下さい。小指サイズで」

と言う私を不思議な顔で、見つめる店員さん。

 ニナリッチの婚約指輪だった。

普通はペアで買う。それも、薬指ではなく小指と言うから、変わってるなと、思われたのだろう。

 小指サイズのがないから、修正するから、日にちが掛かるし、値段が高くなると言われたが、それでいいと伝えた。

 3万8千円だった。

私はこうと決めたら、そうしてしまう。

 給料が殆ど無くなったが、満足だった。

 51歳になったけど今でもしている。

 小指に指輪をする意味は一生独身でいいという事を証明する。

 他の貰った指輪は無くしてしまったが、この指輪だけは無くならないでいる。

 ニナリッチのNだが、私のNだ。

これからも、この指輪だけは無くならない。

もう、32年目になる。