望くん
私が幼稚園で引っ越した時、お隣に5つ位年上の男の子が居て
「のぞ美ちゃんって言うんだ。俺、望。何か名前似てるね!俺の部屋で遊ぼうよ」
と、望君の部屋で
「俺の母さんの柏餅は天下一品なんだぜ!のぞ美ちゃんも食べなよ」
と、柏餅を食べた。
「望君の言うように、天下一品だね!」
と、話しながら食べていると
「のぞ美ちゃんって、附属幼稚園なんだ。なら、勉強できるのだから、俺の教科書、全部あげる。俺、勉強嫌いだから、いらないから」
と、小4の教科書一式戴いた。
望君は学校へ行っても、授業に出ず、校長室で、校長先生と遊んでいるのだそうだ。
望君とは本気でボールの投げ合いをして、顔にぶつかり、私は泣いたら、ホースの水で顔を洗ってくれたり、自転車に二人乗りをして、足を怪我したり、色々あったがとても楽しかった。
ある時、ぱったり望君が居なくなり、中学生にもなると、小学生の私と遊んでもつまらないのだろうなと、ちょっぴり寂しかった。
ブロローン、ボロローンと凄い、轟音で、10台位のバイクがやって来た。
それを、私の母が窓から、悲しそうに見て
「望君、可哀想に・・・。実はのぞ美には言わなかったけど、望君のお母さん、違う人なの。今の継母にお父さんがいない時、苛められて、ご飯もろくに与えられなかったの。どんなに継母に気に入れられるか、一生懸命やったのだけど、駄目だったし、どれだけ本当のお母さんに会いたかったろうにね」
と、初めて知った。
望君は私の事、嫌いになったのではないんだと分かったのと、同時に
「俺の母さんの柏餅は天下一品なんだぜ!」
と、言ったのも、継母に気に入られたかったからだと分かって、辛くなった。
継母に苛められて、中学生になると、友人の家に泊まり歩いて、函館一、喧嘩が強い暴走族の総長になっていた。
あるお昼に、望君が氣志團より、高いリーゼントで家の陰に隠れていて、私は望君に会えた喜びで、
「望君!」
「のぞ美ちゃん、家に誰かいるか見に行ってくれないか?」
と言われ、望君の家にピンポン鳴らして鍵が空いていたので、すみませんと言うも、誰も出て来なかったので、望君に伝えると
「ありがとう」
と言い、家に入って10分程で出て来て、また、どこかへ走って行った。
だから、私は暴走族の子達を嫌いになれない。
望君は函館ではどこの学校も就職も出来ない位だったので、札幌に就職したと聞いた。
今、元気かな?