ファザー・コンプレックス
父は20代でビジネスホテルだが、支配人になっていた。
母が倒れた時も、朝食を作って、幼稚園まで送ってくれた。
私にとって男性は皆、そういう者で、私も社会人になったら、30代で社長位になれると思っていたし、男性も家事、洗濯やれるだろうと、いざ、社会に出たら男尊女卑の酷い事に驚いた。
独身の男の子は母親に、結婚している人は奥さんに家事、洗濯してもらっていると知った。
そして、私は休憩時間に煙草を切らし、小銭がなく、売店で1万円で煙草を買うと
「煙草吸ってたら、良い赤ちゃん産めませんよ~」
と、今ならセクハラに訴えられるような事を言われ、女性は子供を産む道具じゃないと、他の男の子に言うと
「俺のお袋も同じ事言う」
と、言った。
その子も、お母様が幼稚園の先生をしていて、多分、シャキシャキしてる女性だったのだろう、極端に仕事が出来る女性を侮辱した。お母様にこてんぱんにやられていたから、キャリアウーマンたるものを認めたくないようだ。
私が休憩室の掃除をしていると、
「やっぱり、女はそういう仕事しか、与えられないんだよな!」
と、言ったので、掃除も立派な仕事だし、その子がゴミを捨てる途中だったので、
「貴方こそ、ゴミ捨て大変でしょう?」
と、言ったら、私が捨てるゴミも
「俺が捨てに行く」
と、持って行ってくれたのだ。
それをきっかけに困った時は男性に頼もうと、男とハサミは使い様だと学ぶ。
また、ある時、魚のお頭を捨ててたら、調理師さんに
「魚の頭、怖がっていたら、結婚出来ませんよ~」
と、来たもんだ。
その方は既婚者で、全て奥さんにやってもらって、仕事するだけだから、楽で良いなと思う反面、奥さんが可哀想だと感じた。
私は家政婦じゃないと、言いたかったが、私の主張をすると、ややこしくなるので、
「別に平気です」
とだけ言って黙っていた。今思うと言っとけば良かったと、後悔している。
赤ちゃん産めませんよ~と、言った男性は子宮筋腫や生理が上がった女性をもう価値が無いと言っている様なものだし、結婚したら、家事、洗濯は女性の仕事だと思い込んでいる男性と結婚した奥さんは大変でしょうし、お子さんがこんな馬鹿な男が父親なら可哀想だ。
私は兎に角、出世したかった。何故なら、同じ時間、同じ日数働いて、上に行く程、貰う給金が違うし、命令されるのが嫌なタイプだからだ。
自ら会社を興した方が良いタイプだが、自分で会社を創るという発想が無かった。
私の父はチャレンジャーだ。フランク永井さんが好きで、今で言うインディーズの走りで、自分の歌ったレコードを創り持っていた。
私もどこか似たのだろう。外見が今なら考えられないが、華奢で落ち着いて見られていた。
私がブッフェの大皿(テンプレート?)を一気に7枚くらい持って来たとき、調理師さんにビックリされた。
バスケで鍛えた、体力と精神力でどうってこと無い、ホイホイ持って来た。
ビールジョッキを一気に20杯持って行ったら、お客様の方が
「大丈夫?俺が持つから」
と、心配されたが、私は平気だった。
兎に角、働くから出世させろと、無言のレジスタンスを日々、やっていた。
当時は高見沢俊彦が好きという事を隠していた。
学生時代に散々、あのオカマみたいな人が好きなの?と言われ続けて来たから、社会人になってから、秘密にしていた。
偶々同じ高校の女の子が居て
「中ちゃん、まだ、アルフィーの高見沢さん好き?」
と訊かれたので、まだ好きだけど秘密にしてねと頼んだ。
私の好みを知らない男性社員が、ある時、カラオケで、終わりなきメッセージを入れたので、何でこの歌知っているの!?と、オラオラした私を不思議がり、危うく俊彦が好きなのがバレそうになったが、包み隠さず言っておけば良かった。そうしたら、好きでもない男性社員に告白されずにすんだのに。
その同じ高校だった子の凄いところが
「何故、会食を男性だけにするのですか?私達、女性も会食位、男性より出来ます!一度、女性だけで会食をやらせて下さい」
と、上司に直談判し、フランス料理のコースをやる事になり、お客様は15名。
その子ともう一人必要となり、パートだが、会食も出来た私が選ばれた。
その子と
「絶対、会食成功させて、男性の鼻をあかしてやろうね」
と、誓いあった。
商事部の部長が招いたお客様だった。
私がお肉を皿にのせようとした時
「女が出来る訳がない」
と、言ったので、だったら巧くのせてあげましょうと心で言いながら
「はい。どうぞー」
と、女性ならでは柔らかくお肉をのせると、黙ってしまった。
お客様方は
「美味しかったし、貴女達のサービスも最高でした。どうも、ありがとう」
と、言われ、お客様をお見送りし、二人で
「やったね!!」
と、ハイタッチをして、男より、イイ仕事が出来ると証明してみせた。
彼女は函館山の麓のレストランが主だったので、一緒に働いたのは、その時位だったが、山頂で働いていた私は彼女も頑張っているのだからと、女性は結婚するまでの腰掛け程度に思われていたが、私は益々、仕事しまくった。
当時、付き合っていた彼氏に
「あんな働き方してたら、今に身も心もズタズタになって倒れちゃうよ!もっと他の人みたいに上手にサボらなきゃ!」
と、暇なときガラス越しに見えた私に、帰りの車の中で言われた程、気付かない位にワーカホリックだった。
兎に角、出世したかった。母を養いたかったし、もう、愛人の家に居て帰って来ない父の帝王学が、脳裏に刻まれていたのだろう。
ファザコンは永遠に抜け出せなくなっていた。
0~100かしか、考えられない癖も、父の影響だ。
これからも先、父の呪縛から逃げ出せないで、仏陀の教えの中道にはたどり着けずにもがいているアタシがいる。