ふきちゃん

 大学病院に入院していた頃、同室にふきちゃんという、17歳で、ピカチュウ水戸黄門が大好きな女の子がいた。

 彼女は潔癖症、所謂、脅迫性障がいで、手を30分以上、あらう。

 テレビが2台あったが、一つは畳の奥の部屋にあるので、皆、食事をする所で観たい。

 78歳のトヨさんが、歌謡ショーを観たいが、ふきちゃんは水戸黄門が観たく、リモコンを抱きしめて離さないのだ。

 「リモコン返して❗」

「いやだ!!」

の、喧嘩が始まる。

 精神病院ではこんな事で、喧嘩になるのだ。

 17歳対78歳の戦いのゴングが鳴る。

今日はふきちゃんの勝ちだ。

 ふきちゃんは突然、夜尿症になったらしく、段々、ソワソワが酷くなって行った。

 17歳の女の子がオネショしたショックは計り知れない。

 また、手を洗っている、ふきちゃんに私は一番やってはしていけない事をしてしまった。

 後ろから、励ます意味で

「ふきちゃん!」

と、肩を手で抱きしめてしまったのだ!

 ふきちゃんは

「ひゃー!!」

と、叫んで出て行ってしまった。

 驚いて呆然と立ち尽くして

「しまった」

と、呟く私。

 スキンシップを極端に嫌がる人が多い。

 私が先に退院した後、違う病院で偶々、会った。

 その時、もうピカチュウのぬいぐるみは抱っこしていなかった。

 一番、心に色んな事を溜め込む年頃。

ふきちゃんは今、どんな大人になっているのかな?