鎹(かすがい)を壊すな

2022.6.21

 

 私が16歳だったと思う。

父の運転する車に乗って家に送ってもらった時に、父がテープをいれた。

 森高千里の17才だった。

私はピンと、来た。今の父の愛人が好きな歌だなと。

 浮気したい、男性達に教えておきます。結婚しても、遊んで歩きたかったら、一人娘はお止めなさい。

 何故なら、絶対にばれるから。

 父が

「のぞ美。この歌知ってるか?」

と、上機嫌で訊いて来たので

南沙織の17才を森高千里がカバーしたんでしよ!」

と、思わず下らないと、言いそうになったが、我慢して、吐き捨てる様に言った。

 森高千里、本人はストレスで、デビューした時は好きだった。

 綺麗で、作詞していたから、売れると思った。

 しかし、17才の昔の歌を引っ張り出してまで、売れたいのかい?あんたは?と、ガッカリした。

 時間はかかるだろうが、あくまで、自分で作詞した歌で、勝負して欲しかった。

 芸能界は売れたもん勝ちだから、非実力派宣

言さながら、本当に実力のない、歌手が、増えて行った。

 だから、私は洋楽やアルフィー、しか、聴かなくなった。

 父が珍しく家で、晩酌をしていたので、今日は家にいるんだ、と感じ、歌謡ショーにまた、森高千里が出ているのを観ていた。

 私がおばさんになっても・・・、ヘドが出る。

 父に今の愛人が好きな歌手でしょ?と、何度聞こうとした事か。

 母なら、良いが娘の私が訊いてしまうと、全てが、壊れてしまう気がして、言えなかった。

 子はかすがいと、昔から言われている。

その、かすがいが自ら、発言したら、戸が壊れるだろうと思った。

 その年の冬、函館の何かの記念祭で、聖火リレーに母が、父と私のコンビで勝手に応募していて、なんと一番最後の目立つ所を走るのに当たってしまった。

 父とは何日か振りに会う。

一緒に聖火を持ち、火を付ける。

神山町の、お父様の中田一美さんと、一人娘ののぞ美さんが、最終リレーで、今、聖火台に火が灯りました❗皆さん、拍手をどうぞ❗」

と、旗から見ると仲の良い父娘(おやこ)だと、思われただろうが、久々に会いのいきなりペアで聖火リレーだと?

 父はやる気満々だし、応募した母も母だ。

何を考えているのだ?

多分、母は親子が仲が良いと、上手く行くだろうと、感じていたのだろう。

 次の日、担任のこっしーに

「中田、聖火リレー出たんだな!」

と、言われ、ちゃっかり、見られているし。

そのせいで、私は家庭円満だと思われ、バイトの許可がおりなかった。

 高校はバイト禁止で、生活保護とかを受けている子は先生の許可をもらって出来る、システムだった。

 バイトするくらいなら、勉強に励みなさいと言う事と、風紀が乱れるのを防ぐ為だ。

 それにしても、我が家は変わっていた。

愛人を何人も変わるも、大喧嘩するも、最終的には遠距離だったが、離婚せずに父と母はあの世に逝った。

 子はかすがいと言うが、私は何とか壊さなかったのだろうか?