70歳の少年
私が29歳の時、多分、70代の男性と知りあった。ぶっきらぼうに
「何飲む?」
「へぇ?」
「だから、何飲む?」
「缶コーヒーで」
と言った私に奢ってくれた。
出会いは最悪だったが、その男性は
「俺は好きになった奴はトコトン好きだし、嫌いな奴は嫌いだ!どんなに偉くても」
と言った。
朝市に行って、果物を私に買って来てくれたりした。
私に付きまとう男性も、流石に70代の男性には
「のぞ美さんに気があるのだろう!」
とは喰ってかかれなかった。
私がアパートに引っ越した時、手紙を書いた。その方をAさんと呼ぼう。
Aさんはお手紙に
「僕はのぞ美さんに会えなくても、平気です。夢で会えますから」
と、少年のような事を書いて来る。
一度だけ、デートをした。
Aさんは中指と確か薬指がなく、杖を付いていた。
天気の良いお昼に待ち合わせた。
ホテルのラウンジで、ビールを飲み、少し話した。何を話したかは覚えていないが、私は一度も財布を開いた記憶がない。
年金生活なのに奢ってくれたのだ。
そして、私は気を付けて
「Aさん、ゆっくり行きましょう」
と言っても、Aさんは男の俺が先に歩いて、のぞ美さんを守るんだ!と言う気持ちがひしひしと伝わって来た。
公園に行こうとなって、私は大丈夫かな?と感じたが、公園に着いて、山になっている所で、Aさんが転んでしまったのだ。
私はAさんに済まない気持ちで、一杯だった。Aさんは
「アハハ、転んじゃったよ」
と、笑顔で答える。
そして、Aさんが
「のぞ美さんと、ラブラブしてる夢を見ちゃった❗」
に始は分からなかったが、後であー、そういう事かと気付く。
私はそのデートで、Aさんに体力的にも、金銭的にも、負担を与えていると感じ、サヨナラした後、手紙に
「もう、何とも思っていません。私の事は忘れて下さい」
と思ってもいない事を書いて送った。
そうしたら、お手紙が来なくなった。
私はAさんにただ、毎日楽しく、健やかに生きて欲しいと願うばかりで、私が入ると、Aさんを苦しめる事になると感じたから、サヨナラした。
暫くして、8つ年下の男の子に告白される。 しかし、デートに誘っておきながら、男性が奢るのは考え方が古すぎますと言われた。
男女平等と言う傘の元に単なる金払いが悪いだけの汚い男だと分かって、付き合う前に本性を知れて良かった。
年齢は関係無いのだなと、僅かな年金でも、私の為に身銭を切る人と、これが最後の恋ですと言っときながら、一円も出したく無いと言う人なら、どちらが愛情あるか?
そして、Aさんは断ったら、黙って身を引いたけど、年下の男の子は5年後、ストーカーになってしまった。
どちらが愛してくれたか、一目瞭然だろう。
70代でも、少年のようなピュアな心を持った人もいれば、若いけど、自分が好きだから、デートして、でも、お金は出したく無いと言う気持ちのひもじい人もいる。
何も奢って欲しくて言っているのでは無い。デート費用も出したく無いと言う人が、私が危ない目に遭った時、命掛けで守ってくれるか?と考えたら、私を置いてさっさと逃げるだろうと分かったからだ。
多分、Aさんなら、自分の身が危なくなっても、私を守ってくれるだろう。
人として、どちらが愛を持っているか?
考えたら、分かるだろう。
Aさんはまだ、この世に居て欲しいが、父より、年上だったからな。
元気で居て欲しいと願うばかりだ。