最後のお茶

 前にも話したことだと思う。

 家を出てった父が突然家に入ってきて

「お前らの家じゃないんだ!とっとと出て行け!」

と叫び、母を追いかけ回す。

 今までの暴れ方とは尋常ではなかったので また警察を呼んだ。

 警察の方を父が説得させて 父が私に

「俺のアパートに来い」

と 行った 。

母は

「のぞ美私を捨てるのかい?」

と捨てられた仔犬のような目で私に言ったので

「ちょっと待ってて 父と話をしてくるから 」

と、父のアパートへタクシーで向かった。

 父はアパートへ着くと

「のぞ美。お茶入れてくれ」

また、命令か。

そう、思いながら、私はかまをかけてみた。

父と母とどちらが、正しいのか、分からなかったからだ。

 「父?この前、裁判所に私、電話掛けたら、借金は両者の責任だって言ってたけど、どうなの?」

に、父は黙ってしまった。

 私は裁判所になんて、一度も電話していない。

 父は私に母が2000万の借金をして、自分がヤクザに土下座して回り、ようやっと、200万にしてもらったと言う。

 そして、新しい愛人がお母さんの様に可愛いがるから、こっちにおいでと言った。

 しかし、例えそれが事実でも、私が居なくなれば、母は天涯孤独になってしまう。

 それに、人の父親に手を付けた女を今更、母親としてなんて、思えない。

 母は母で

「そんなの、嘘!オヤジ(父の事)が、慰謝料よこしたくないからの、でっち上げよ!」

と、互いに意見が違うのだ。

 父の反応で、どちらが、嘘を付いていたのかが、分かった。

 私は

「これが、人生最後のお茶になる」

と、思いながら、入れた。

 父は

「のぞ美。ロープウェイ何かに働いていないで、俺の店、手伝え。全然、お金が違うぞ!

お前が働けば日給何万円になるそ!」

と言った。

 父の店はお客様が少なくなっていったのだろう。

「今度は実の娘を居酒屋の客引きに使おうとするまで、おちぶれたのかい?」

と、心で、呟きながら

「はい。お茶」

と、テーブルに置く。

 父のアパートに来たのは初めてだった。

6畳間と、8畳間にキッチンが付いていて、エレクトーンが置かれていた。

 「あの家、売るぞ。あの住宅街に建っていても、無駄だって。父さん住んでいるような、商店街に建てなきゃ」

(私の心の声)

「でも、アンタが、あそこに建てたんじゃなかったっけ?新築の時は友人呼んだり、喜んでいなかったっけ?」

 私は分かったと、一言だけ言い、タクシー代の3千円を貰い、家に着いた。

 「母!今から、車に乗せれるだけの荷物を詰め込んで、家を出よう。父がくるまえに」

に、家に執着していた母も

「分かった」

と言い、シビックに乗せれるだけの荷物を乗せた。

 こういう日に限って、私が早番だったので、お店の鍵を持っていた。

 一番、仲の良い、やっちゃん家へam7時に行き、寝巻き姿のやっちゃんに

「申し訳ないんだけど、函館出なくちゃ、いけなくなったから、鍵渡すから、宜しく頼むね。もし、父から、会社にでも、電話来たら、札幌に行ったと伝えて!」

に、やっちゃんは、泣きながら

「函館出て行っちゃうの?」

に、ゴメンと謝り、あとにした。

 前にも、連れ返された事があるから、フェリー乗り場ではソワソワしていた。

 ATMにあるだけのお金を引き出し、それでも、二人、フェリーに乗るお金と、3日位の食費位しかない。

 フェリーに車を乗せ、本当は駄目なのだが、犬の高見沢俊彦=としも連れて来た。

 ひとりにしておけなかったからだ。

車に隠したり、乗車員が居ない所を散歩させたり、としも私達も大変だった。

 私は遠くなる、函館を見ながら

「これが、最後の函館だ。バイバイ、みんな!バイバイ、函館!バイバイ、北海道!」

と、滲む、函館を消えるまで見ていた。

 

     多分、思い出した時迄、続く・・・